文/中本千晶 イラスト/牧彩子
※『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ )より抜粋して構成しました。
A.ファンはご贔屓の男役スターに対し、「1.理想の彼氏」として恋をし、「2.同じ女性」として憧れ、「3.舞台人」としての芸を愛でている。イケメン男優に対して2は持てないし、女性タレントに対して1は持てない。したがってタカラヅカの男役は「1粒…いや、1人で3度美味しい存在」なのである。
◆男役・3つの魅力成分
どの男役スターも「理想の彼氏」「憧れの女性」「究極の舞台人」の3つの魅力を兼ね備えているが、その割合は人それぞれ。それが男役の個性にもつながっている。
1.「理想の彼氏」成分
タカラヅカの舞台に登場する二枚目は女性にとっての理想の男性像を体現しているわけだから、彼氏としてこれ以上の存在はない。しかもリアルな男性ではないから決して過ちを犯す危険もない。女性はどこかでそれをわかっている。安心安全のバーチャル彼氏である。
2.「憧れの女性」成分
その素顔はスタイリッシュなハンサムウーマン。じつは宴会芸の達人だったりお料理上手だったりすると完全にギャップ萌えである。どんなに忙しくても常に笑顔で全力投球、その健気な姿を見れば、嫌な上司のことも煩わしい家事のことも忘れて「私も頑張ろう」と思うことができるのだ。
3.「究極の舞台人」成分
もちろん舞台人としても素晴らしい存在。しかもタカラヅカの場合、上演作品が多彩なだけに、愛でる要素もさまざまだ。耳福な歌声、目を釘付けにさせるダンスから、当意即妙なアドリブ力、芝居を締めるいぶし銀的名演技、力強いリフト技に到るまで、ファンが堕ちるきっかけはいたるところに仕掛けられている。
A.「その日」は突然やって来る。ご贔屓スターとの運命の出会い、それは「恋に落ちる」瞬間に似ている。恋の仕方が十人十色であるのと同様、ご贔屓スターの応援の仕方も人それぞれ。だが、タカラヅカ的「恋多き女」になるための努力は可能だ。「運命の出会い」を引き寄せるべく、恋の上級者は下級生チェックに余念がない。
◆スター候補生の見分け方
「思わず目に入ってきてしまう」のがスターの証。その輝きが観客の目に留まりやすいよう、タカラヅカの舞台には様々な仕掛けが施されている。
(お芝居編)
●主人公の「影」(たとえ姿がはっきり見えなくてもスター候補生がやる)
●号外を売る人、伝令として走って来る人
●主人公の子ども時代をやる人
(ショー編)
●トップスターの斜め後ろで踊っている人(目に入りがちな位置)
●10人前後のダンスシーンの後列の両端にいる人
●パレードのダブルトリオの中にもスター候補生がいる
A.タカラヅカは最初から女性のものだったわけではない。創設期には男性ファンが多く、娘役が人気だった。今は客席における男性の割合はだいたい10人に1人ぐらい。だが、妻や彼女に誘われたからでなく自主的に観る「ヅカ男子」は増えている。男性だからトクすることもあるし、気軽に劇場に足を運んでみよう。
◆ヅカ男子7つのメリット
1.人脈が劇的に広がる
清く正しく美しいタカラヅカを愛する人に悪い人はいない。したがって互いに「タカラヅカが好き」とわかった瞬間に信頼関係が構築される。
2.家庭が円満に
妻や娘がタカラヅカファンだった場合、家庭での居心地は圧倒的に良くなる。そうでなくても、お互い「ハマる」ものがある方が夫婦関係もうまくいく。
3.右脳が活性化する
美の洪水を浴びれば、とかく左脳で考えすぎる男性にも論理を超えたひらめきが。アートの時代といわれる今まさに必要とされる刺激だ。
4.客席でモテる
少数派の男性は舞台上のタカラジェンヌからも注目される。ウインク攻撃してもらえる確率も高いかも。
5.客席以外でもモテる
「タカラヅカなんて女性が観るもの」という古い価値観に縛られていない男性は、女性から見ても魅力的。婚活マーケットでの価値も急上昇だ。
6.トイレが空いている
だが油断してはいけない。最近は「男子トイレに列ができていた」との目撃情報もある。
7.とにかく元気になれる!
仕事に疲れたときは「観ると必ず元気になれる」タカラヅカでエネルギーチャージを!
A.ファンにとってタカラヅカは消費の対象ではない、「わがこと」だ。受け身で舞台を鑑賞するだけではない、タカラヅカ・ワールドの一員として主体的に関わっている。そして、初日から千秋楽まで共に走り、一緒に作品を創り上げているという意識が強い。だから、まるで会社に「通う」がごとく、劇場に「通う」のだ。
◆何度も観る3つの理由解説
1.舞台のあちこちに見どころがあり過ぎるから
生の舞台は空気も出演者一人ひとりのお芝居も毎回違う。時にはハプニングもあるし、アドリブのシーンは全公演制覇したくなる。スターの一挙一動を堪能できる前方席と舞台全体が見渡せる後方席、上から見下ろす2階席でも見えるものが違う。舞台上のあらゆるところが「神は細部に宿る」精神で作り込まれているため、何度見ても飽きることはない。
2.進化や成長を見守りたいから
タカラヅカは「育てゲー」、それは毎回の公演でも同じだ。少々あたふたする初日から、回を重ねるごとに作品として熟成していき、そして全てを出し切る千秋楽の潔さ。ご贔屓スターのお芝居だって変わっていく。その進化の過程を見届けたいのがタカラヅカファンの性。それに、気になる下級生チェックに集中する回だって欲しいのだ。
3.とにかく一緒にいたいから!
何度も観る理由をひとことで言うならそういうことだ。「大好きな人と一緒にいたい」、その気持ちに余計な説明は不要だろう。
文・中本千晶(なかもと ちあき)
<プロフィール>
1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)。早稲田大学講師。
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『タカラヅカの解剖図館』エクスナレッジ
文/中本千晶 イラスト/牧彩子
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イラスト・牧彩子(まき あやこ)
<プロフィール>
1981年生まれ。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSでの4コマ漫画を連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』(平凡社/2018年)も好評発売中。Twitterアカウント@maki_sun