第9回
もっと楽しく!ヅカトーク
日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第9回目は「もっと楽しく!ヅカトーク」です。ぜひご一読ください。
「タカラヅカにハマれば、友だちの輪が一気に広がる」とは、よく言われることである。
だが、必ず盛り上がるといわれるヅカトークも、意外と難しい面もあるなと最近思うようになった。というのも、集まった中の一人(Nさん・仮名)が、売り出し中のスター・瀬出南すみれ(愛称セディナン ※)の熱烈なファンであった場合、Nさんがセディナンへの熱い想いをとうとうと語ると、周囲との温度差ゆえに微妙な空気が流れてしまうことがあるのだ。
こういう場合、つらいのはNさんの方だ。一人で突っ走ってしまったことへの恥ずかしさと、そうはいっても「この私の想い、本当はわかって欲しい!」という本音との間で板挟みになってしまう。 しかも、私調べによると、あるスターに対する一般的な印象と、熱烈なファンの人が好きなポイントはかなり違う。むしろ真逆であることが多い。
たとえば、一般に「男の中の男」などと言われているスターの場合、ファンの人は可愛らしい素顔こそが好きだったりする。逆に、フェアリー系と言われるスターの場合、ファンの人は意外と骨太なお芝居を愛していたりするものだ。
世間では「三拍子そろった実力派」などと称されるスターに関して、ファンの人は実は彼女がそう言われるために誰よりも努力していることを知っており、「でも、それは私にしかわからないのね」と一抹の寂しさを覚える。
ご贔屓スターに対する想いが強ければ強いほど、お互いわかりあうのは難しい。それで結局、Nさんも「やっぱりセディナンのファンで集まるのが一番気楽だわ」ということになりがちだ。世の中「ダイバーシティ(多様性)」が流行りだが、多様性を認め合うのはやはり難しいことなのだと実感する。
これはタカラヅカワールドに限った話ではない。今の世の中、どの界隈でもこうしたタコツボ化の傾向が著しい。だが、それでは世界は狭まるばかりでもったいないのではないかと思う。
先のようなヅカトークの場を少しでも心地良くするにはどうしたらいいのだろう?その秘訣は、まず「たとえヅカオタ同士であっても、意外と理解し合えていないもの」と知ることだ。そして、その前提のもとで、みんなが聴き上手になることではないだろうか。
そうすれば、みんな思いのたけを気持ち良く語って発散できるだろうし、聴いている側にもいいことはある。
私は、ヅカオタが語る「私の贔屓の萌えポイント」を聴くのが大好きだ。たとえば、ある人はご贔屓スターのお芝居の見どころについて、「決めゼリフの後に一瞬だけ見せる照れ隠しの笑顔」だと語り、またある人はご贔屓スターのショーでの見どころについて、「スーツに腕まくりで踊る場面の二の腕の筋肉」だと語る。
こうした話を聞くと「やはり、神は細部に宿るのだ!」と深い感動を覚える。自分一人では決して見つけられないピンポイントなツボ、知れば知るほど、作品全体の解像度も劇的に上がって観劇の楽しみが増していく。
そんなわけで、「多様性を認め合う」って結局は自分にとってお得な話ではないかと思う。
文中本千晶(なかもと ちあき)
1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。
1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。
第10回「日々是カンゲキ」のテーマは、「タカラヅカで磨く自己管理力」
あらゆる趣味の中でも「観劇」は最も面倒くさい趣味だとは思いませんか?
公演期間の確認、観劇日程の選出、観劇全体の予算の上限も考えつつ、各種先着販売に一般販売のスケジュールをしっかり押さえてチケットを購入し、やってくる観劇日に向けて体調管理を万全にして…。ああ、面倒くさい!でもやめられない…。
そんなタカラヅカファンの自己管理に関するアレコレを、中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第10回「日々是カンゲキ」は2022年8月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご確認ください!