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■『春暁・陽春特別公演2022』中村勘九郎さん×中村七之助さん《インタビュー》

春暁・陽春2022

春暁特別公演 2022
陽春特別公演 2022

はじめにintroduction

<春暁特別公演、陽春特別公演とは>

 中村勘九郎、中村七之助を中心に、中村屋一門が毎年行う全国巡業公演、それが春暁特別公演、陽春特別公演です。時期によって「錦秋」、「新緑」と銘打つこともあり、2005年より毎年欠かさず行ってきました。しかしながら2020年は、やむなく中止となってしまいました。2021年3月~4月の春暁特別公演で再開し、同年10月にも全国15ヶ所で行うことが出来ました。改めて各地のお客様の温かさを実感し、全国に伺うことの大切さを痛感しました。
 歌舞伎座のある東京をはじめ、歌舞伎を見る事が出来る劇場は全国でも限られています。ある時、2人の元に若いファンの方から「地方にいると交通費や宿泊費がかかってなかなか歌舞伎を見に行くことが出来ない」という内容のお手紙をいただいたことがあります。父である十八代目中村勘三郎とともに親子会として全国各地に伺っていたこともあり、それならば「自分たちが全国各地に足を運び、たくさんの方に歌舞伎を見てもらおう」と、兄弟ふたりを中心とした全国巡業の特別公演が始まりました。
 毎年いろいろな演目を取り上げ、年によっては和太鼓や津軽三味線とのコラボレーション行うなどお客様に楽しんでいただけるように工夫を凝らしています。各地に残る芝居小屋にも伺うなど、より多くのお客様にお届けできれば、と、常に挑戦を続けております。また、2019年には中村七之助が中心となって「中村七之助 特別舞踊公演2019」を全国12カ所(内芝居小屋3カ所)で初めて開催、多くのお客様にご覧いただきました。2021年の春暁特別公演には、中村勘太郎、中村長三郎が巡業公演に初参加し、5ヶ所で開催いたしました。
 2022年は「春暁」と「陽春」、それぞれに趣向を凝らした演目をお届けいたします。

中村勘九郎さん×中村七之助さんインタビュー INTERVIEW

中村勘九郎さん、中村七之助さんを中心に、中村屋が毎年行っている全国巡業公演がスタート。新型コロナウイルスの感染拡大で全公演中止となった2020年を除き、毎年欠かさずに行ってきたという巡業公演は今年17年目を迎えます。昨年からは、勘九郎さんのご子息である勘太郎さん、長三郎さんも加わり、ますます魅力的な舞台になっています。今回は勘九郎さん、七之助さんに両公演の見どころをお伺いしました。
栃木公演で、47都道府県を制覇! 
これからも続けていきます
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いよいよ3月から巡業公演が始まりますね。

中村勘九郎(以下、勘九郎) 巡業公演は私たちがとても大切にしている公演です。昨年からは子どもたちも加わり、中村屋みんなで行う公演を今年もできることが嬉しいですね。このようなご時世に、お客様に安心して見ていただけるよう努めているスタッフのおかげだと思っています。

中村七之助(以下、七之助) もともとこの巡業は、「遠い劇場になかなか足を運べない」という地方の方からいただいたお手紙がきっかけとなって始めたもの。おかげさまで17年目を迎え、今年の栃木公演で、47都道府県すべてで公演したことになります。

勘九郎 47都道府県は回りましたが、地方巡業のトークショーで「初めて歌舞伎を生で見た方」と聞くと、まだまだ手が挙がるんです。ですからこれで満足せず、これからも精力的に取り組んでいきたいと思っています。

桜満開の舞台で、
一足先に春を感じていただければ
中村勘九郎・七之助_春暁・陽春2022_3_450x300

春暁特別公演の「高坏(たかつき)」、「隅田川千種濡事(すみだがわちぐさのぬれごと)」について教えてください。

勘九郎 「高坏(たかつき)」は、十七代目中村勘三郎が今のかたちにしたもので、これはもう、家の芸と言っても過言ではないものです。中村屋にとって大切な演目のひとつです。それを今回は「大名某」を小三郎、「太郎冠者」を仲助と仲侍のダブルキャスト、「高足売」を鶴松と、すべて中村屋でできることが嬉しいですね。巡業公演は、お弟子さん含め、中村屋が一丸となって作り上げることにも主眼を置いているので、それが叶うのもありがたいです。この舞台は、春先取りではありませんが、桜満開の中、お酒を飲むシーンがとても華やかなので、このご時世に少しでもお花見の楽しい気持ちを感じてもらえたらと思っています。

七之助 「隅田川千種濡事(すみだがわちぐさのぬれごと)」は、「於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)」という「お染の七役」と言われる長いお芝居の中の、最後の段切れの舞踊です。父が襲名の折に巡業でこういうことがしたいと道を作っておいてくれたものを私が真似をして、ひとりで芝居小屋を中心に全国を巡業した際にかけさせていただいた演目でもあり、思い入れがありますね。歌舞伎のエンターテインメント性の象徴とも言える早替りは、地方ではまだまだ生で見たことがないという方も多く、以前披露した際はとても喜ばれました。そこで今回は、兄は中村屋にゆかりのある「高杯」を、私は「早替り」を見ていただこうとこの演目を選びました。

中村勘九郎・七之助_春暁・陽春2022_2_450x300

「隅田川」での早替りとともに、「高杯」では高下駄でのタップダンスも見どころですね。

勘九郎 確かにそうなのですが、高下駄でのタップも早替りも、僕たちからしたら実はオマケです。タップや早替えそのものよりも、「高杯」なら、次郎冠者がお酒の匂いや桜の風情に誘われて、ピンク色の粉をお客さんに振りまく……客席に桜が満開になっている雰囲気を作れるかというところ、七之助なら、「お染の七役」をベースに置きつつ、それまでの人間関係だったり、踊りの風情だったりが表現できているかが、より大切なポイントだと思っています。もちろん、タップも早替りも完璧にできなければいけませんが。

七之助 早替りはお弟子さんたちとの連携ですね。僕は突っ立ってるだけです(笑)。踊る上では、自分の手先を残しながら一瞬で手ぬぐいを持ち替えるとか、わざと動きを遅らせるとか、そんな所作の部分はいろいろと考えています。とはいえ、セリフもほとんどありませんし、なかなか踊りだけをみてすべてを理解するのは難しいので、そんなときはぜひ、パンフレットを見ていただけたら。お話や歌詞についてなどとても詳しく書いてありますので、より楽しみやすくなると思います。

勘九郎 あ、そうそう! 実は今年は下駄を新調しました! 以前は父の下駄を使っていたのですが、やはり人にはそれぞれ「サイズ」というものもありまして(笑)。今回は、自分の下駄での踊りの最初のお目見え、ということになりそうです。

男女の因果因縁を描いた名作は
今の人たちの心にも響くはず
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「陽春特別公演」について、まずは「玉兎(たまうさぎ)」について教えてください。

勘九郎 「玉兎(たまうさぎ)」は通常はひとりで踊るもの。しかし今回はこれを勘太郎と長三郎、ふたりで踊るかたちに作りかえています。「かちかち山」を演じる場面などは、うさぎとたぬき、それぞれにパート分けをして踊るつもりなので、とても珍しいものになるのではないでしょうか。勘太郎は6歳の頃にひとりで歌舞伎座で踊ったことがありますし、長三郎のほうも、お稽古ではずいぶん前に仕上がっている作品なので、安心してお届けできるのではないかと思っています。

七之助 歌舞伎には、舞踊といってもいろいろなジャンルがありますので、この機会にそんなことも知っていただけたら嬉しいですね。子どもたちは私の目から見ても、昨年2月の大きな舞台を勤め上げてから、自覚や責任感が出たように思います。

勘九郎 まだまだではありますが、舞台に立つのと立たないのとでは、大きな違いがあるのでしょう。成長してほしいですね(笑)。ふたりとも最近は、お芝居がとても好きになって、家に帰ってきてもお芝居ごっこをしたり、歌舞伎のビデオをみたり、また僕以外の役者の歌舞伎や文楽を観に行ったりしています。楽しみながら自らの芸に取り入れようとしている姿は、親の立場を離れても、嬉しいなと思います。

「色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)」についてはいかがでしょうか。

勘九郎 「色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)」は、清元の代表的な作品のひとつです。男と女のドロドロとした部分を描いた物語で、清元の名文句、名調子を楽しめる、私もとても好きな作品です。実は昔、僕がかさねを演じ、七之助が与右衛門を演じたことがあったんです。まだ私が10代の頃のことなので、ご存知の方は少ないかと思いますが……今度は男女逆転になりますので、僕も楽しんでできたらと思っています。

七之助 この作品は、清元の中でも代表作、名曲中の名曲なので、踊りのみならず、ぜひ曲も聞いていただきたいですね。私は海外公演の際、フランスでは演じさせていただいたのですが、日本では初めてなので、とても楽しみにしています。恋心から始まる因果因縁の物語なのですが、かさねの踊りはだんだんと足が折れて、顔が醜くなって……という変化まで踊り分けなければならないので、たいへん難しいのですが、素晴らしい作品だと思っています。

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七之助さんが演じる「かさね」は、少し恐ろしい怨念を抱えた女性なのですね。

七之助 かさねさんは、一途なだけなんです。与右衛門という男がね、もうあまりにもひどいんです(笑)!

勘九郎 そうなんです。僕(与右衛門)が全部悪いんですよ(笑)。実はお父さんを殺していたり、かさねさんのお母さんとも関係を持っちゃったり……本当にひどい男です。

七之助 そういう因縁の話なんです。その業苦がなぜ与右衛門のほうにいかないのかは不思議なのですが……。かさねの立場から言うと、最高だと思っていたものが実は自分を最も苦しめるものだったという絶望感や、また自分の姿が因果因縁の果てに醜く崩れていく、そのさなかで抱く感情など、そういうドロドロしたものを見せられたらと思っています。おばけではないんですよね。

勘九郎 そうそう、すごく可哀想な女性なんです。でも、かさねの姿は、今見てくださる女性の方の感覚にマッチしたり、心に響くところがあると思いますし、彼女に共感すると、ストーリーはよりドラマチックに感じられるのではないかと思います。

七之助 踊りのほうは、かさねと与右衛門の「助け合い」が大切。ふたりの息がばっちり合うと、まるで磁石のようにはねのけあったり、くっついたり。自分の美しい面を見せたり、醜い面を見せたりというメリハリが面白い踊りなので、そこはふたりで息を合わせていきたいと思っています。

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写真:©中田智章(なかだともあき)