ミュージカル
フィスト・オブ・ノーススター
~北斗の拳~
はじめにINTRODUCTION
<2021年ミュージカル・ベストテン>
総合第4位に輝いた話題作
フランク・ワイルドホーンによるダイナミックな音楽と、演出 石丸さち子、脚本・作詞 高橋亜子がタッグを組んだ緻密な構成演出によって新感覚のエンターテインメント作品に昇華されたミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』には昨年の初演時には観劇後の原作ファンやミュージカルファンから驚きの声とともに多くの称賛の声が寄せられた。 “ミュージカル”誌<2021年ミュージカル・ベストテン>において総合第4位にランクイン、オリジナルミュージカルとしては第1位に輝く快挙を遂げた本作が、ブラッシュアップされて帰って来る。
週刊少年ジャンプに1983年〜1988年まで、原作・武論尊、漫画・原哲夫により連載された作品。
最終戦争により文明社会が失われ、暴力が支配する世界となった世紀末を舞台に、北斗神拳の伝承者・ケンシロウが、愛と哀しみを背負い救世主として成長していく姿が描かれており、連載開始から35年以上たった今でも多くの読者に愛されている。
原作漫画の累計発行部数は1億部を突破しておりTVアニメや劇場版アニメ、脇役たちをフィーチャーした外伝が作られるなど人気は高く、社会現象にまでなった作品。2023年9月13日に40周年を迎える。
ストーリーSTORY
二千年の歴史を誇る北斗神拳の修行に励んでいた ケンシロウ(大貫勇輔)、 トキ(小西遼生)、 ラオウ(福井晶一/永井 大)の三兄弟。南斗の里から来た ユリア(平原綾香/May’n)、そのお付きの トウ(AKANE LIV)とともに成長していく三兄弟の中から師父 リュウケン(宮川 浩)は末弟のケンシロウを次の伝承者に選んだ。折しも世界を覆う核戦争によって文明社会は崩壊し、人々は弱肉強食の時代を生きることとなった。ケンシロウはユリアとの愛を育み共に荒廃した世界を生きていこうとした日、南斗の シン(植原卓也/上田堪大)にユリアを強奪され、胸に七つの傷を刻まれる。絶望の中放浪の旅に出たケンシロウは、たどり着いた村で出会った二人の孤児 バット(渡邉 蒼)、 リン(山﨑玲奈/桑原愛佳)と共に旅を続ける。一方ラオウは世紀末覇者・拳王を名乗り、世界を恐怖で支配しようとしていた。ケンシロウは女戦士マミヤ(清水美依紗)が治める村の用心棒 レイ(三浦涼介)と共にラオウによって牢獄カサンドラに囚われたトキを救出するが、その後ユリアが失意の中でシンの居城から身を投げたことをラオウから知らされる。ケンシロウはラオウとの闘いの末に壮絶な最期を遂げた ジュウザ(伊礼彼方/上川一哉)をはじめとする愛すべき仲間や強敵(とも)たちの哀しみを胸に、世界に光を取り戻すべく救世主として立ち上がるのだった。
制作発表レポートREPORT
前列左より) 石丸さち子、永井 大、May’n、大貫勇輔、平原綾香、小西遼生、福井晶一
後列左より) 上田堪大、清水美依紗、三浦涼介、伊礼彼方、上川一哉、植原卓也
(演出の石丸さち子さんへ)今回、再演にあたってどのようにブラッシュアップされたのでしょうか?
石丸さち子(演出)
よりシンプルに、そしてよりダイナミックに。たくさんの方に観に来ていただいて、お客様に愛されて育っていった作品なので、私が本番中に客席で感じていたこと、そして本番を重ねる中で俳優たちと「次があったらこういうふうにしていきたいね」と話したこと、脚本の高橋亜子さんと「今度やるときはここをこうしてみたらどうだろう」と話したことを少しずつ積み立てていきました。
前回よりも、ほんの少しの変化、一行のセリフが追加されただけでも、そのキャラクターの人生がよく分かるような。例えば伊礼(彼方)さんと、新しく上川(一哉)さんが演じるジュウザの役は、前回より少しシーンにセリフが増えただけで、ずっと彼の人生の深さがわかるようになっています。
そして大きく変化したのは、レイ役の三浦涼介さん、シーンが1つ加わりました。これで、救世主として自覚していくケンシロウと、同じように愛する者を失って人生を見失っていたレイ、同じような人生を生きていたふたりが出会うことによって、より深々とこの苦しい時代を生きる男たちの生きざまのようなものが、より深く描けるのではないかと思って、そのような変化がたくさん詰まっています。これはぜひ楽しみにしていただきたいです。
初演の段階で次はこうしようという構想があったんですね!
石丸さち子 日生劇場の楽屋から話していました(笑)。
新しく迎えたキャストも、続投のキャストもいます。その辺りも踏まえて、現在のお芝居の稽古の進行状況を教えていただけますか?
石丸さち子
「北斗の拳」がなぜ愛されたか。それは、人間が心を裸にして、あくまで人間力で戦った、描いたというところが受け入れられたような気がしているんですね。(新型コロナウイルス感染症の感染状況など)今も厳しい状況が続きますし、それから中国公演のために準備を積み重ねてきましたが、残念ながら行けなくなった。でも私たちの心はまっすぐ東京公演と福岡公演に向いております。みんなが心を寄せ合って、俳優として乗り越えなくてはいけない壁に、カンパニーとして乗り越えなくてはいけない壁に、一丸となって立ち向かっていく、素晴らしい稽古場なんです。フランク・ワイルドホーンさんのダイナミックな音楽、高橋亜子さんの書く「北斗の拳」の世界ながら、繊細なセリフが盛り込まれた本作に、潔さ、清々しさ、勇ましさが魅力になっていて、それらが稽古場にも表れていると思っています。
新しくなったところとしては、1幕最後、(ケンシロウ役の)大貫勇輔さんが救世主として覚悟を決めるシーン、そこは初演のときから、もう一つ飛べるんじゃないかと話しをしていました。今回は大貫さんが初演を演じ切ったときからずっと思っていたものを、彼自身が振付をしました。その振付に合わせて、音楽も音楽班と一緒に新しく用意しました。私だったら1幕ラストでスタンディングオベーションをしたいぐらい、長い時間彼が培ってきた身体と、演じてきたケンシロウの役への理解、そして、今こんな時代にリーダーになるという責任を背負っていく決意のようなものが振付の中に入っていて、今を生きる私が本当に落涙してしまいました。早くお客様にお届けしたい。そんなブラッシュアップが、例えばラオウとトキの最後の戦いのときなども前回よりもぐっとブラッシュアップして素敵になっています。いろいろな変化がありますので、初演を愛してくださった皆様にも、今度初めてご覧になるお客様にもぜひ劇場にお越しいただきたいと思っています。
キャストの皆様にお伺いします。稽古場での様子や、この作品を通して伝えたいことを教えてください。
大貫勇輔(ケンシロウ役)
こうして1年経たずに再演ができることになり本当に嬉しく思っています。それはたくさんの方に支えられて今があると思っておりますので、まずその責任を全うして全力で挑みたいなと思っています。
そして稽古場はですね、初演から続投の人もいながら、新しい人も入って、新しい演出が加わり、本当にバージョンアップしたものが着々と出来上がっているなという実感が日々積もっています。初演からまだ1年経っておりませんが、このような時代ですし、世界的にも時代的にもいろいろな変化がありました。ケンシロウが最初に「地獄のようなこの時代に、一体何ができるんだ」と言うんですよね。それがすごく自分の中で突き刺さって、僕がこのケンシロウをやる、この時代にやる責任というものをまた新たにこの台詞で感じています。子どもたちや先輩方にいろいろなことを教えてもらいながら、この時代にこの作品をやる責任をしっかりと全うしなくてはいけないなと日々思って過ごしています。
平原綾香(ユリア役/Wキャスト)
私はまだお稽古に3回しか参加できていないので、あまり偉そうなことは言えないのですが…、私はまたこの作品に出演できることを嬉しく思います。お稽古場に行くたびに、皆さんのパワーをいただいて、短い時間ですけれども一生懸命お稽古させていただいております。
そしてこの「フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜」の初演のときは、私にとって一番つらいときに、自分の命を懸けて没頭した作品でもあります。この素晴らしい作品が、私の胸を何度も引き裂いて、何度も抱きしめてくれました。この経験というのは一生忘れることができないと思います。実は私、今まで「北斗の拳」という作品を見てこなかったんですね。こんなにいい作品で、こんなに泣ける作品なんだということを、このミュージカルを通して知ることができました。ユリアという役を通して、何ができるかなって…できればケンシロウが演じたかったかなって思ったり(笑)。ケンシロウは何かに打ち勝って、成長していく役なんですよね。それがとても羨ましかったんです。ユリアはある意味最初から完成されている女性で、常に待ち続ける、そして誰よりも月のように太陽のように見守っている役なので、難しかったんですが、一歩一歩稽古を重ねていく所存ですので、皆様楽しみにしていただければと思います。
May’n(ユリア役/Wキャスト)
「戦い」が大きなテーマの作品で、稽古場に入るとすごくエネルギッシュで、集中していて、そしてパワーが漲っています。でも一旦離れると、皆さん気さくで、すごく楽しい稽古場だなと思います。
ユリアはケンシロウはもちろん、シンやラオウとセリフを交わすシーンが多いので、初演から出演しているキャストはもちろんですけども、永井(大)さんとたくさんお芝居の稽古をやらせていただいています。普段はこんなに柔らかくて、爽やかな永井さんが、真正面で目を合わせると、思わず後退りしてしまうぐらい迫力がすごくて、さらに衣装をまとってメイクをされた永井さんと舞台上で対峙するときがとても楽しみです。
毎日、選択の連続だと思うんですね。いろいろなことに直面して、自分の意思で選んで進んでいく中で、これでいいのかなと迷いながら日々を過ごしていると思うんです。でもとにかく自分自身の心のときめきや心の動き、大切な人や物を信じる気持ちで、毎日を過ごしていきたいなと思っています。ユリアも最初からいろいろな選択を迫られますけれども、愛を信じる強い気持ちを大事に、私自身もお芝居をお届けしたいなと思っています。
小西遼生(トキ役)
稽古場に初めて参加したとき、ちょっと怖かったです(笑)。先ほどお話しされていた石丸さんのエネルギーの強さ心の強さが、キャスト全員スタッフ全員に伝染していて、もともといるメンバーの熱量が半端じゃなかったです。僕、高校生のときにバスケ部に入ろうと思っていたんですけど、練習中のあまりの怒号に体育館の扉をそっと閉めてバスケ部に入らなかったんです。今の稽古場はそんな熱量があって、そのことを思い出してしまいました(笑)。1週間ぐらい慣れるまでは様子を見ながら、少しずつ熱量を上げてあげて、ようやく一緒の空気を吸えるようになりました。
トキという役は、熱い男たちの中でも、静かなる闘志といいますか、秘めた想いが強い役柄ですので、気弱な僕にはぴったりなんじゃないかなと思っております。現場に流れている空気というのは、たった数公演をやるというエネルギーではなくて、中国の公演はなくなってしまいましたけど、大貫くんも事あるごとに「世界が見ても恥ずかしくないと本気で思って、シーンに挑んでいる」と言っていて、石丸さんも「どの国でも届けられるようなエネルギーを秘める作品だ」と、そういった確信を持ちながら稽古をやっているので、僕自身もまずはそのエネルギーを届けたいと思います。役柄としては、見守る愛とか託す愛とか、そういうものを伝えていけたらと思います。
伊礼彼方(ジュウザ役/Wキャスト)
今回、遅れて現場入りしましたけれども、非常にブラッシュアップされていて、分かりやすく面白くなっております。
初演はですね、ゼロから作る面白さがありましたけど、再演というのは続投組の熱意がもう込められているものですから、新しいメンバーはそこに付いていくのが最初は大変だっただろうと思います。さっきの小西くんの話を聞いても、多分相当嫌だったんだろうなと思いますけど(笑)。非常に素晴らしいメンバーが集まりまして、蓋を開けたら、みんな暑苦しいというね(笑)。個人的には、先ほど石丸さんが仰ってましたけど、僕が前回演じたレイとジュウザのシーンがまぁ良くなっているんですよ!(伊礼さんは、初演でレイ/ジュウザを役替わり出演)
石丸さち子 あなたのおかげです。
伊礼彼方 あ、僕のおかげですか?初演のときは思いつかないもんですね。よかったね、三浦くん!三浦くんがまた素敵なんです。羨ましくて嫉妬しちゃう!なぜあのシーンを僕にやらせてくれなかったのか!亜子さん!そんな思いでいますけど、本当に、分かりやすくなっております。ぜひ観ていただきたいと思います。
僕は今、ベトナムでアメリカンドリームを掴んでいる最中で(「ミス・サイゴン」エンジニア役)、途中こちらの世紀末に来たりするんですけど(笑)、ベトナムの役もテンション高いし、ジュウザもテンションが高いんですよ。前回は、レイとジュウザでバランスがとれていたんですが、今回はものすごい陽なんです。だから皆さんに迷惑かけているんじゃないかなと思いつつ、暗い男たちの話なので、ジュウザが出てきたときは、素敵な箸休めになるよう楽しんでいただければなと思うので、楽しんでください!
上川一哉(ジュウザ役/Wキャスト)
初めて出演させていただきます。よろしくお願いします。僕も初めてお稽古場に参加させていただいたときは、皆さんの熱量に圧倒されました。
でもそれだけ皆さんの作品にかける思いや愛が詰まっているんだなと思ったのと、作品の中にたくさんのメッセージがあるんだなと、改めて感じることができました。たくさんの先輩方の背中を見ながら、一つ一つ学んでいき、裸になってチャレンジしていけたらなと思っております。
たくさんのメッセージがこの作品には詰まっているなと思っております。この作品を通して、観ていただいている方の何かのきっかけになったり、明日を生きる力になってくれたらいいなと思っております。精一杯務めさせていただきます。
伊礼彼方 本当にキャラが違いすぎて(笑)。これがWキャストの楽しみです。ぜひ味わってください(笑)。
植原卓也(シン役/Wキャスト)
僕は前回に引き続き出演させていただいているんですれけども、一度初演が上演されているということで、今回、稽古のスタートラインというか、基準値が高いなと僕自身感じました。
先ほど小西くんも仰っていましたけど、初めて触れる方々は本当にハードな稽古の環境なんじゃないかなと思います。その姿を見て、僕自身もまた気合を入れ直して、シンと向き合って、戦っていきたいなというふうに思っている日々です。
劇中ではシンも含め、数々の男たちがユリアへの愛のために戦って生きているわけですけども、観てくださった皆様にも、対人じゃなくても、自分なりに集中しているものだったり、好きなもの、はまっているもののために、例えば「日々頑張れているな」とか「少しずつ一歩一歩を進んでいきたいな」とか、そういう明日への活力みたいなものを改めてお届けできたらいいなと思っています。
上田堪大(シン役/Wキャスト)
小西さんと上川さん、僕、初演のとき全く同じ感想でした!今だから言えるんですけど、本当に怖くて…。お稽古に行くときも、足が重くて…。それぐらいに苦しかったりしたんですけど、その中で、石丸さんはじめ先輩方たちの愛に本当に包まれていて、本番はお客様と気持ちが通じて、何か育んでいた作品だなと思って、そういうことを思い出したんですけど…。
小西遼生 ごめん、嫌じゃない。僕は嫌とは言ってないからね(笑)。
上田堪大 はい(笑)。そういうものを経てここにいるんだなと思っています。この作品でシンはユリアを愛していて、前回も今回もやっぱり愛だなと感じています。この愛というものがどういう形で伝わっていくのか、こんな時代でも生きていくという強い気持ちが皆様に届けばいいなと思いながら、臨んでいきたいと思います。
清水美依紗(マミヤ役)
私も本当に最初の稽古の日に圧倒されてしまって、小西さんとずっと共感しあって「やばいね。怖いね」と話していたんですけど(笑)、今回は私にとって初ミュージカルで、ちゃんとした役でそこに存在するというのが初めてのことなので、稽古場でどういればいいかとか、どういうふうに役づくりをしたらいいか、本当に全く皆無の状態でした。演出の石丸さち子さんをはじめ、豪華なキャストの方々にすごく支えられて、たくさんのことを毎日学びながら、もがきながら稽古に励んでいます。
マミヤは、自分とは違って強い女性です。村のリーダーとして村人を守る女戦士なんですが、彼女の過去に私との共通点を感じました。ですので、こうして役をいただけたことがすごく嬉しいのですが、いざこの役を演じるとなったときにすごくたくさん壁にぶつかっています。毎日悩む日々ですけど、この作品はいろいろな愛の形が知れる作品だなと自分自身がすごく感じたので、それをお客様にもぜひ感じていただきたいなと思っております。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。
三浦涼介(レイ役)
今回僕は、稽古に入るのが少し遅れたんですけれども、その間も稽古場の映像を毎日撮っていただいてその動画を他の仕事の合間に見させていただいたんですが、その時点から本当に熱がすごくて、ここに入っていくのかと、ドキドキワクワクしながら稽古場に入っていきました。
伊礼さんとお会いするのがすごく楽しみで、稽古場に行ったらなかなかお会いできなかったんですけど、遅れて参加されて実際にお会いすると、すごく暑苦しいというか…(笑)。
伊礼彼方 言葉選べよ、制作発表だよ(笑)。
三浦涼介 とんでもないテンションをお持ちでして、本当にお会いできて嬉しく思っています。他のキャストの皆さんとお会いできることを楽しみにしていたんですが、中でも大貫さんとはプライベートでもすごく仲良くさせてもらっていて、こうして一緒にお芝居ができることがすごく毎日楽しいです。そして、常に愛を与えてくれる石丸さち子さんの演出のもと、本当にひとつひとつ、一瞬一瞬を大切にして、お稽古をして、お客様の前に出る日を楽しみに、精一杯頑張っていこうと思いますので、応援よろしくお願いします。
永井大(ラオウ役/Wキャスト)
僕も今回初めて参加させていただきます。最初の顔合わせ、本読みからの熱がすごいんですよ。前回出演された皆さんがいきなり立ち始めて、パイプ椅子の上で芝居をやられる方もいて(笑)。とにかく声の大きさも含めてですけども、すごかったです。それにまず圧倒されました。
今回、僕はミュージカルが初めてなので、歌の方もすごく恐怖や不安をたくさん抱えながら顔合わせに臨みました。意外にデリケートだなと思ったのは、歌を歌わなければいけないという日に限って、非常にお腹が痛くなる日が続いて…。それが徐々に皆さんのキャラクターを知ることによって、いろいろ支えてもらって、少しずつ本番に向けて光が見えてきたなというところまで皆さんが導いてくださって、今に至ります。それも座長である大貫くんがみんなを引っ張ってくれて、本当にケンシロウとしてドンと構えてくれるので、僕ら新キャストとして参加させていただくメンバーとしても本当に頼りがいがありますね。
役としてはラオウという大きな人間をみせていきたいと思っています。戦いのシーンも多くあって、自分もまだまだ体が動くなと思っていたんですけども、大貫さんの動きを観たら圧巻というか、体力と運動能力がすごいんですよね。だから自分の出番がないときに大貫さんの動きを観ているだけで、すごく刺激になって勉強になります。全体的にも、皆さんが毎日毎日いろいろ目標を定めながら、それに向かって突き進んでいる姿が、本当に稽古場で感じられます。それをさらに引き上げて引っ張ってくれる石丸さんのパワーもすごいです。
ラオウという役は、自分の道を貫く男で、最後の最後には愛とか悲しみとかに気づくような男になっていく、乱暴に突き進むような男ではあると思うんですけども、その中に垣間見えるデリケートな部分も表現していければいいなと思っています。メッセージ性の強い作品になっていると思いますので、ぜひたくさんのお客様に観に来ていただきたいなと思っています。
福井晶一(ラオウ役/Wキャスト)
初演を超えなくてはいけないという点で、再演は難しいなという思いもありますけど、稽古場に入って、(石丸)さち子さんの熱が初演以上にすごいので、引っ張ってもらっています。
初演を演じたことで、道標ができているので、そこでまた新たに歌詞やセリフを変更して、初演よりもより分かりやすくなっている部分もたくさんあります。初演からあまり期間が経っていないので、スイッチやタイミングが自分の中に刷り込まれているので、新たに落とし込むのが大変だなと思いながらやっています。初演は宮尾俊太郎くんとこの役を作ってきたんですけど、永井大さんをお迎えして、本当に素晴らしい身体能力と吸収力ですね。初ミュージカルとは思えない、堂々とした素晴らしい方なので、永井くんと一緒に、ラオウイズムを叩き込んで、この作品に挑むことを幸せに感じています。
今回、中国人のダンサーの方々が拳王軍に参加されています。顔(ヤン)先生の素晴らしい振付を、ダンサーが素晴らしい身体能力で挑んでくれるので、そこも一つの見どころだと思います。
ラオウとしては、ここにいる男たちを一人一人ぶっ倒していくわけですけども(笑)、一人一人を本気にさせることが僕の使命だと思っています。ケンシロウが愛をつかんでいく過程において、ラオウは本当に重要な圧倒的な存在だと思うので、そこを初演に引き続き、突き詰めていきたいと思います。
最後に、中国公演が中止になってしまいましたが、そのことに関するお気持ちや、改めて今回の公演に対する決意をお願いします。
大貫勇輔 そうですね、本当に残念な気持ちをみんなで共有しました。とにかく今回はできなかったですけど、中国で配信できることが決まったので、中国の方たちがそれを観て何かを感じて、何年後になるか分からないですけども、またいつの日か、中国公演またはヨーロッパやアメリカなど、世界のいろんな国でできたらいいなという思いを強く持ちながら日々稽古しています。とにかく今は、公演数が少ないですけれども、1回1回の公演で、奇跡を起こせるように、奇跡を皆様に見てもらえるように全力で取り組み、いつの日かという気持ちもありながら、とにかくこの東京公演と福岡公演を大成功させようと日々みんなで一丸となっております。
三浦涼介さん
インタビューINTERVIEW
2021年に初演されたミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター ~北斗の拳~』が早くも再演されます。あの『北斗の拳』をミュージカルに!? と原作ファンもミュージカルファンも驚かせ、しかも実際に上演されると非常に評判が良く、雑誌『ミュージカル』の<2021年ミュージカル・ベストテン>総合第4位にランクインする評価も得た作品です。三浦さんは再演からの参加ですが、初演はご覧になっていますか。
はい、運よく拝見できました。その時はまだ自分が関わることになるとは思ってもいなかったのですが、過去にご一緒したことのある石丸さち子さんの演出だということと(ミュージカル『マタ・ハリ』、’21年)、キャストにも知っている俳優さんが多かったので、気になっていたんです。実は僕、知り合いの役者が出ている作品って、あえて観ないことも多いんです。普段の顔を知っている分照れくさかったり、プライベートの顔が頭をよぎって集中できなかったりしますので。でも『フィスト・オブ・ノーススター』は没頭して観たし、すごく感動した。皆さんのお芝居にも歌唱力にもですが、何といっても全身を使ったアクションに心を揺さぶられました。とんでもない努力を重ね、お稽古をしてきたんだと思う。そして一公演一公演に命をかけていることがすごく伝わってきて、そこに感動しました。本当に素晴らしかったです。
たしかに、とてもエネルギーを感じる舞台でした。
原作ありきのものを、映像ではなく舞台化するってすごく難しいと思うんです。映像では見せられることも舞台ではできなかったりする。そういう難しいところにスタッフもキャストも挑戦していました。この作品は、キャラクターたちが対面で、生で、アクションをしていた。もちろん映像で様々な効果を使って表現する素晴らしさもありますが、『フィスト・オブ・ノーススター』は目の前で起こっているリアリティが、感動を生んでいたと思います。
ちなみにこの非常に有名な原作、三浦さんは子どもの頃に触れていますか?
漫画をアタマから最後まできちんと読んでいるようなファンではありませんが、小さい頃から『北斗の拳』という漫画は有名でしたし、“近くにあった”印象です。原作というよりアニメやゲームとかで少しずつ触れていて知っていた、という感じ。今回、自分が出演することをきっかけに、改めて作品の大元やその歴史に踏み出せるなと、ワクワクしています。
私も、原作は読んではいないけれど、キャラクター名や絵柄や印象的なフレーズは知っていた……という人間です。読んでいない人にもそれだけ浸透している『北斗の拳』ってすごいなと改めて思うと同時に、このミュージカルでストーリーを知り、想像以上にシリアスな話なんだなと思いました。
それは僕も感じました。人間模様がとても深く描かれている。何より、“生き死に”を描きながらも、そのことよりもそこにある“愛”や“義”にフォーカスを当てているところが良いですよね。相手に対しての義、自分の生き方に対しての義……。“人間的感覚”を大切にした物語です。
そんな印象的だった作品の再演に、出演オファーがあった時はどう思いましたか?
「えっ、大丈夫?」と思いました(笑)。やると知って観に行っていたらまた感覚も違ったかもしれませんが、完全に観る側として観劇し、そのエネルギーに圧倒された作品でしたので。「あれをやれるのか?」という思いはありましたね。ただ、やると決まったら「大変そうだな」という思いから作品に入っていくのは自分にとっても作品にとっても良くありませんので、楽しみなところを考えました。それはやはり演出の石丸さんや、良く知っている共演者の皆さんの存在、それから、なかなか東京以外の場所での公演にハードルが高くなってしまっているこのご時世で、今回は福岡公演があるということ。作品自体への興味の上に、そういった楽しみを重ね、自分を奮い立たせました(笑)。
「あれをやれるのか?」というのは、体力的に……でしょうか?
今回はアクションを例に挙げましたが、実はこの作品に限らず、どのお仕事でも最初は「自分にできるのかな」という思いを抱きます。やっぱり僕の年代の、僕のような役者は山ほどいますから。“替わりはいくらでもいる”というのは、常に不安要素なんです。その上で「僕がやるからにはどうしたらいいのか」「どうしたら自分が楽しめるか」という不安は付きまといます。
とても意外です。三浦さんの個性は唯一無二ですし、我が道を進んでいるイメージです。
個性的と言われることもあるのですが、僕自身が個性的な俳優になりたいと思って生きてきたところではないところでの評価だったりするので……。僕は役者として役に対して真摯に向き合いたいと思っていますが、だからこそなのか、客観的に自分自身を見ることがなかなかできないんですよ。たまに本当に役にのめり込みすぎて、自分を見失ってしまうこともありますので、観た方が個性的だと思ってくださるのは僕じゃなくてその役柄かもしれない。僕自身はビビリだし、この仕事を何年やっていても「どうしよう、どうしよう」と常に悩んでいる。確かに「緊張しなさそう」とか、何なら「怖そう」と言われることも多いのですが(笑)、僕はどの作品でも、どの役者さんより一番緊張している自信があるくらいの緊張しいです。それでもこの仕事をやめられないのは、それはやっぱりお客さまを前に生でパフォーマンスできる感動、そして素晴らしいキャストやスタッフとの出会いがあるから。それに尽きるんだなと思います。
三浦さんの俳優という仕事との向き合い方も垣間見れた気がします。せっかくですのでもう少し三浦さんのお仕事のスタンスをお伺いできれば。『フィスト・オブ・ノーススター』のお稽古はまだ先だと思いますが、今回に限らず、三浦さんは役というものをどのようなところから作っていくのですか? 俳優さんによって、ひたすら台本を読み込む方や、周辺資料も深く調べる方、身一つで稽古場に入って現場でのセッションで作り上げていく方などいろいろいらっしゃるかと思いますが。
調べられることは調べ、全部の要素は手に入れておきたいと思っています。歴史があるものは可能な限りの資料に目を通したいし、実際に起きた出来事をモチーフにしていたら、その舞台となった場所に行ってその空気を吸ったり、やれることはひと通りやりたい。結果的に「今回は必要なかったね」というものもあるかもしれないけれど、直接的には使わなかったとしても、手に取ったもの、目にしたもの、聞いたこと……何ひとつ僕にとって無駄になったものはありません。ただ、10代、20代の頃はそうして考えて、どこか頭でっかちになって「こうじゃないとダメなんだ」という決めつけや、カッコつけをしていたこともありました。でも30代に入って、相手と感じあえたことで広がっていくものがこんなにあるのか、と知れる機会が増えてきています。それは自分が経験を重ねてきたからそう感じ取れるようになったというよりは、それだけありがたい出会いをたくさんさせてもらったんだと思います。演出家の方に教えてもらったり、対峙する俳優さんから心のこもった台詞や歌を受け取って、自分の感覚が広がったり。だから、役を作るにあたりたくさんの情報は調べたい、でも一方でなるべく稽古場にはナチュラルにフラットに行けたら、と思うようにもなってきています。
演じるレイという役の魅力は、現時点ではどういうところにあると捉えていますか。
レイに関して僕が興味を持っているのは、“人のために生きて、人のために死ねる”という感覚です。まさに先ほどのお話に繋がるのですが、今の僕は“自分の芝居をどうするか”ということではなく、“相手の芝居を受けて自分がどうできるか”“相手の役者さんが気持ち良く芝居するために、僕はどう返したらいいのか”というところを考えて演技をしたい、そう生きていきたいと考えています。レイの、人のために生きる、人のために戦うという生き方は、僕が目指したい生き方とマッチしていて、そんなレイを演じられることが楽しみで仕方ありません。
お話を聞いて、三浦さんのレイがいっそう楽しみになってきました!
ありがとうございます。レイの愛や義をスマートに見せたいと思っています。そういう大きなものをスマートに見せることが、石丸(さち子)さんとだったら出来ると思うので。やっぱり、死を舞台上で見せることほど難しいものはないと思うんです。生きるところを丁寧に描いても、死ぬシーンで少し冷めてしまう瞬間とか、ありませんか? 死に様を美しく飾るのではなく、精いっぱい生きた結果、死に様が美しく見えたらいいなと思います。……そうですね、レイは「美」という文字を常に意識しながら演じたいです。
そして、レイは南斗六聖拳の使い手ですので……三浦さんが感動したアクションという面で言うと、フライングもありますね!
数が多いわけではないのですが、過去にもワイヤーアクションはやったことがあります。ただ、そこに気を取られすぎて何かがおろそかになってしまう瞬間がある。もちろん事故が起きてしまってはいけませんので緊張感を持つことは大事ですし、怪我をしないようにしなければいけません。でも「いざとなったら自分の身は自分で守る」という余裕を持てるくらいにお稽古を頑張って、芝居に集中できるようにしていきたいです。
最後に改めて、本作への意気込みをお願いします。
原作ありきの作品は、原作のファンがいらっしゃいます。ファンが「絶対ここは」というポイントは失わず、あとは本当に目の前でキャラクターたちが生きているみたいだと思ってもらえたら最高だなと思います。僕らも演じる役者のエゴではなくきちんと作品に対し愛を持って演じたい。そして純粋に作品を楽しんでほしいという愛情がお客さまに伝わったらいいなと思います。ぜひ観にいらしてください。
(取材・文:平野祥恵)