江戸時代には、朝から一日かけて楽しんだという芝居見物。
今回は、現代の歌舞伎の楽しみ方をご紹介します。
前号で市川右近さんが、「江戸時代の〝芝居見物〞の雰囲気を味わうなら、銀座の劇場でしょう」と教えてくれました。それ以来、ぜひ一度訪れたいと願っていた東京の歌舞伎座。
今回は特別に松竹株式会社の箱守さんが、初心者でも楽しめる「歌舞伎座の一日」を案内してくれました。
当日は、朝10時に歌舞伎座前で集合。昼公演の一時間前ですが「観劇だけではない、いろいろな楽しみ方が歌舞伎座にはあるんですよ。まずはこの正面からの姿を見てください」。
ということで、はじめに紹介してくれたのが歌舞伎座の顔ともいえる正面入口。明治22年、当時の地名で京橋区木挽町に誕生した歌舞伎座は4度の建て替えを経て平成25年にリニューアルオープンしました。建て替え前の特徴的な意匠を踏襲して造られた堂々たる唐破風(からはふ)屋根、白壁に映える赤い欄干といった純和風の外観が、歴史と伝統を感じさせます。
続いて向かったのは、劇場の背後にそびえる近代的な「歌舞伎座タワー」の5階にある体験型施設「歌舞伎座ギャラリー」です(一般:600円/当月の歌舞伎座の観劇チケットを提示すると100円引)。ここでは歌舞伎の歴史や用語の解説だけでなく、今も歌舞伎座の舞台で使われている貴重な衣裳や小道具、大道具を間近で見ることができます。
素晴らしいのは、実際に手で触れて、動かせること。例えば効果音に使う道具(貝殻をすりあわせてカエルの鳴き声、小豆を入れた籠を揺らして波の音など)を鳴らしたり、棹(差し金(さしがね))の先についた、美しい蝶々をひらひらと舞わせてみたり。「蝶が飛ぶ時は、音高の違ういくつかの小さな鉦を効果音として鳴らすんですよ」と、係の人もていねいに解説してくれます。
ギャラリー内には人気演目の場面が再現され、実際に舞台へ上がって役者になりきることも。また役者が出入りする揚幕(あげまく)の開け閉めをしたり、黒御簾(くろみす/舞台下手にある芝居に合わせて音楽を演奏する場所)の中にある大太鼓や銅鑼を鳴らすなど、裏方の気分も味わえます。
十分に歌舞伎座ギャラリーを楽しんだところで、いよいよ本物の歌舞伎を観に行きましょう。
▲歌舞伎座ギャラリー入口では、まるで幕を開けているような写真が撮れる
▲(左)揚幕をくぐって花道へ。藤の枝など小道具も手にできる(右)小豆が入った籠を揺らし波の音を再現する小道具
幕間に楽しむお弁当と一番人気のスイーツ
地下の売店・弁当処「やぐら」で、一番人気の「歌舞伎茶屋お好み弁当」を買っていざ劇場内へ。開演時間になっても客席の照明が消えないことに、まず驚いてしまいました。周りのお客さんは、慣れた様子で筋書き(パンフレット)をめくっています。「筋書きがあれば物語の内容を確認したり、気になる役者を調べることもできますよ。またイヤホンガイドを借りれば、より詳しい解説をリアルタイムで楽しむことができます」と箱守さん。
この日の一幕目は、碁盤を使った立廻りが大迫力の『碁盤忠信(ごばんただのぶ)』。筋書きのおかげで、おなじみの源義経と家来のお話だと分かって親しみが持てました。
少し長めの休憩の間に、先ほど買ったお弁当を広げ、旬の素材を生かした色とりどりのおかずを味わいました。客席でお弁当を広げるのも歌舞伎座ならではの楽しみ方です。
続く演目『太刀盗人(たちぬすびと)』では、コミカルな台詞と動きに大爆笑。この後の休憩の時、「ちょっぴりお腹が空きませんか?」と箱守さんに誘われて、3階にある売店へ急ぎました。売り切れ直前に何とか手にした「めでたい焼き」は、焼きたてぱりぱりの皮に包まれた優しい甘さの小豆餡。中に紅白の団子も入った、大満足の味でした。「5個以上は、予約もできますよ」と教わったので、次回はぜひ家族へのおみやげにしようと決めました。
三幕目の『一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)』は、愚か者のふりをしていた主人公が、妻をかばうために本性をあらわして大活躍するという、ギャップが面白いお芝居。歌舞伎は難しそう、分からないかもという不安も忘れて存分に楽しみました。
歌舞伎座ならではの和のおみやげ
時間は16時。帰り際におすすめされたのは、芝居町のにぎわいを再現したという地下2階の「木挽町広場」への寄り道です。
ここでは飴の小袋に歌舞伎の演目が描かれた「一心堂本舗」の「べっこう梅飴」や、金の小判のレプリカが入ったおせんべい「これでよしなに」など、歌舞伎座ならではのおみやげが購入できます。くまどりをキャラクター化した、歌舞伎座オリジナルの「くまどり屋一門」のタオルハンカチや手ぬぐいも人気の品だそう。
水引細工を現代風にアレンジしたアクセサリーや、天然漆を使ったお箸などの和雑貨にも心を惹かれます。次回は客席で見かけたような粋な着物姿で歌舞伎座に来てみたい。そんな夢も描くことができました。
訪れる前は自分にはちょっと難しいかも…と感じていた芝居見物ですが、歌舞伎は分かりやすく面白く、グルメやショッピングも楽しめました。一日たっぷり遊べる歌舞伎座へ、皆さんも一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
※本記事は2016年9月頃に取材・撮影を行い、編集しています。