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■パルコ・プロデュース2021 ザ・ドクター 大竹しのぶさん《インタビュー》

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パルコ・プロデュース2021
theDOCTOR
[ザ・ドクター]

INTRODUCTIONはじめに

大竹しのぶがエリート医師役でロンドン発の話題作に挑む!
現代の苦悩と縮図が魅力的に描かれた最高傑作をお届けします。

2019年にロンドンで上演され、連日ソールドアウト、翌年2020年には英国演劇界で最も権威あるオリヴィエ賞の作品賞・女優賞にノミネートされた話題作が日本初上陸します。描かれるのはある医療機関での人間ドラマ。医療研究所の所長であり医師であるルースが、ひとりの少女の臨終の間際、突然やってきた神父の入室を断ったことから様々な問題が顕在化、世間を巻き込んだ騒動になっていくというもの。信仰や階級格差、ジェンダー、そして“炎上”など、現代社会が抱えるあらゆる問題が医師たちの上に降り注ぎ、その中で自らの職業と向き合っていく医師たちの火花散るドラマを、豪華俳優陣が演じます。

ルースを演じるのは日本を代表する大女優、大竹しのぶさん。自身、ロンドンで観劇し「これが演劇なんだ、真実の芝居なんだ」と衝撃を受けたと語る本作に挑む心境を伺いました。

STORYストーリー

イギリス最高峰の医療機関・エリザベス研究所。その創設者であり、所長のルース・ウルフ(大竹しのぶ)は、訳あって自ら妊娠中絶を行い、敗血症で運び込まれた14歳の少女を看取ろうとしていた。そこに「少女の両親から傍についていてほしいと頼まれた」というカトリックの神父、ジェイコブ・ライス(益岡徹)が現れる。神父に対し、ルースは面会謝絶を告げて、集中治療室への入室を拒否する。若手医師(那須凜)から少女の容態の急変を知らされ、同僚の医師ポール・マーフィ(橋本淳)やマイケル・コプリ―(宮崎秋人)と手を尽くすが少女は死を迎える。少女の死に立ち会えなかった神父は、典礼を拒絶されたとして怒り、この出来事を公にすると告げて去る。ほどなく、このことはインターネットから発信され、研究所の出資者の耳にも入ってしまう。
ブライアン・シプリアン教授(久保酎吉)や、広報担当のレベッカ・ロバーツ(村川絵梨)は、ルースへの批判を不当なものとして、相手にはしていない。だが、次期所長の座を狙う野心家ロジャー・ハーディマン教授(橋本さとし)やマーフィらは、一部の出資者たちが怒っていることを問題視。それでも毅然と「自分に落ち度はない」と主張するルース。その姿勢は、自身の元教え子で保険担当大臣のジェマイマ・フリント(明星真由美)からも支持されたように見えた。しかし、彼女を断罪しようとする出資者の動きにより、世論は激化。信仰、人種、ジェンダー……、アイデンティティの違いもあいまって、医師たちもまた医学上、宗教上の主張により対立。研究所内の分断は深まり、パワーゲームは白熱していく……。
自宅では、パートナーのチャーリー(床嶋佳子)や近所に住むサミ(天野はな)と心を通わせ、自分を見つめ直すルース。自分を取り戻した彼女は医師としての信念を貫くことを決意。自分を責め立てる人々が待ち受ける、テレビのディベート番組への出演を決める――。

INTERVIEWインタビュー

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大竹しのぶさん インタビュー

2年前にロンドンで拝見されて「惹き込まれた」とのこと。どのようなところに感銘を受けたのでしょう。

2019年の8月に10年ぶりくらいにロンドンにお芝居を観に行ったんです。その時にあちらの知人に「今、すごく評判のいい芝居がある、これが初演で幕が開いたばかりだが、絶対観ておいた方がいい」と教えていただいて、なんとかチケットを取って行ったのが『ザ・ドクター』でした。数行のあらすじを読んだだけで、言葉も難しかったのですが、それでも11人の俳優の演技が細やかで繊細で、彼らを見ているだけでワクワクし、吸い込まれました。ルース役のジュリエット・スティーブンソンさんも本当にリアリティがあって素敵で、理知的でクールで、カッコよかった。けしてオーバーな演技ではなく、本当にそこで行われていることを私たち観客が見ているというような、演劇の基礎のようなお芝居。でもエネルギーがあり「あなたのお芝居をまた観に来ます!」と思うくらい惹き込まれました。
その時はこのお芝居を日本に持ってくるとか、日本でやるなら誰がやるんだろうというようなこともまったく考えずに観ていましたので、今回出演のお話があったときに「えっ、あの『ザ・ドクター』?」とびっくりしました。まさか自分が演じるとは思っていなかったです(笑)。でもあの緊張感を今度は自分が体現できるんだと思って、とても嬉しく思いました。

改めて日本語版の台本を読んで、この物語はどんな印象を受けましたか?

ロンドンで観た時はジェンダーの問題、宗教的問題などはなんとなく単語でわかったのですが、ここまで現代人が抱えている問題を次から次へと討論している芝居なんだと改めて知りました。でも会話にリズムがあり、登場人物が同時にも喋るし、とてもリアリティがある。しかも心理劇のような面もありますので、とても面白いです。

大竹さんご自身、社会派演劇は久しぶりですね。

そうですね。どちらかと言えば私は大仰な芝居が多いので(笑)。でもギリシャ悲劇にしても、現代社会が抱える問題とさほど変わらなかったりします。ただ、今回の『ザ・ドクター』はよりリアリティを求められるなとは思いました。私がロンドンのアルメイダ劇場で体感したように、“今、そこで起こっていること”のように役者が舞台上で演じなければいけない。オーバーじゃなくリアルな芝居をしないと成立しない作品だと思います。

大竹さんが演じるのはルース・ウルフ。医師にして、研究所の所長というキャリアの女性です。現段階ではどのような女性だと捉えていますか。

キャリアもあるし、頭もよく腕のある、もちろん自信もあるドクターです。とてもカッコいい人物ですが、私生活で抱えている問題含め、完璧な人間などいないし、誰もが孤独や寂しさを抱えながら生きているなと彼女を見て思います。その強さと弱さのバランスをうまく出せたら……と思います。

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宣伝文句にもなっているルースの台詞、「人間である前に、医師だと思っています」という言葉が印象的です。大竹さんも「人間である前に女優」と思うことはありますか?

全く、まーったく、ないです(笑)! 「女優だからしょうがない、ちゃんとした洋服を着て買い物に行くか」くらいはありますが(笑)。あと「女優なんだからちゃんと美容院行きなさいよ」ともよく言われます。でも自分の中で“女優”を最優先するようなことはないです。
ただ、この台本を読んでいて、医師という方々はそういうものなのだというのはとてもよくわかりました。つまり、次から次へと患者が運ばれてきて、その中で状況を判断し問題を解決していく。作中、AとBの治療法があるとして、あなたはAが正しいと言うが私はBが正しいと思う、そしてあなたが言ったAは正しくなかった、その結果患者が死んだ、というようなエピソードが出てきます。そうやって日々命と向き合い、どの治療法がいいのかを選択していく。そこにはもちろん感情はあるのでしょうが、非常に冷静な判断のもと、命と対峙している。普通の神経じゃできない仕事だと思いました。例えば「あの子を助けたいの」と言っていても、感情的に「助けたい」ではなく、助けるのが当たり前でそれが私の仕事だから、という視点ですね。それが医師なんだというのがわかりました。その基本的な部分を自分できちんと作っていかないといけないなと思っています。

今仰ったようなAとBの判断、取捨選択というようなところで、救える命と救えない命に分かれてしまう、というのは、とくにここ数ヵ月、この日本でもビビッドに感じられるところです。

そうなんですよね。この作品の医師たちの、「あなたが選択した方法によってこの患者は死んだ、でもそれは仕方ないことで次に行く、だって次の患者が待っているから」というクールさはすごいし、本当に頭も身体も常に回転している職業なんだろうなと思います。患者としては、一番人間として大事な命を、お医者さまの判断に託しているのですから。ただ今のこの医療がひっ迫している中、私もお医者さまのドキュメンタリーをニュースやYouTubeで見たりしていますが、救える命が救えない医師の苦しさは、大変なものだと思います。だから……本当にタイムリーになってしまいますね。今この作品をやっていいのかなと思う反面、失礼のないように向き合おうと思っています。本当にお医者さまって、大変な職業ですよね……。

しかもルースたちは医師として命や病に向き合っているだけでなく、人間関係を筆頭に様々な問題も降りかかってきます。

はい。病院内の嫉妬や人種問題などで地位を奪おうとする人たちがいたり、それを騒ぎ立て報道するメディアがいたり、その結果失脚させられたり……と、現代の問題がたくさん出てきます。人はこんなに問題だらけの世界で生きているんだなと嫌になっちゃう(笑)。でもその反面、この世界の中で人は生きていかなければならないんだ、と感じさせる戯曲でもあります。宗教的問題などは日本はイギリスとは感覚が違いますので、演出の栗山民也さんや翻訳の小田島恒志さんとお話しながらやっていきたいと思います。

栗山さんとのタッグはこれまでも多いですね。

栗山さんは役者の立ち位置から角度まで、本当に細かく演出してくださる方。そこまで言う方ってそんなにいないのですが、今回はその力が絶対的に必要だと感じています。役者が自由に動くことより、栗山さんの演出の力でフォーメーションを作ってもらい、表現としてひとつのものが出来上がると思いますので、今回、栗山さんが演出をやってくださることを嬉しく思います。誰が主役というものではなく、登場人物11人が同じくらいのパワーを持っていますので、気持ちも力も意欲も揃えて、立ち向かいたいと思います。

最後に、こんな状況でも劇場に足を運んでくれるお客さまにメッセージを。

私は昨年11月に『女の一生』というお芝居をやったのですが、この作品の初演は1945年4月、戦時中で、空襲警報が鳴ったら中止にする、という状況の中でやったそうです。それでも(主演の)杉村春子さんはこのお芝居をやりたかったそうです。11月の時点では客席は50%、いつもとは違う状況でしたが、「それでも来てくれるお客さんがひとりでも、ふたりでもいらっしゃるのならやります」という気持ちでした。それはおそらく杉村さんと同じような気持ちだったのだと思います。1月の『フェードル』の時も、「この芝居だけは観たい」と思って来てくださったお客さまが客席にいるのを感じました。すごいエネルギーをお客さまから受け取り「わかりました、それ以上のものを見せます!」とこちらもエネルギーを出すという、いつもとは違う緊張感での客席との交流ができました。コロナ禍になって1年半くらいになりますが、けして慣れてきたということはなく、本当に覚悟をもって皆さま劇場に来てくださっているのだと思います。今、劇場に来ていただくというのはとても大きなハードルで、その上でチケット代を出して、来てくださるわけですから、劇場自体が普段とは違う雰囲気になります。それに応えられるような、「ああやっぱり来てよかった、生のお芝居を観て良かった」と思っていただける作品を私たちは作らなければならないと思っています。
「今こそ観てください」「今こそ芸術を」とは思いません。私たちは、時短営業になっても店を開けるレストランの方と同じ。これが仕事だからやるんです。でも、本当に劇場の感染対策はすごいです。どの劇場に行っても、手すりなども細かく消毒し、そのための人もたくさん雇い、大変な思いをして幕を開ける。だからこそ役者はそれに応えられる芝居をしなければいけないと思います。

客席の私たちもその思いをきちんと受け止めたいと思います。

もうひとつ言えることがあるとすれば、今の現実の世の中は、ニュースなどを見ていると、目を覆いたくなるような現状があります。でも稽古場にいると何もかも忘れられる。稽古場だけが輝いている。その(物語の)世界の中で生きていけるから一番幸せで、一番いい時間になっています。たぶん、お芝居を観に来てくださる方も、日常をまったく忘れ『ザ・ドクター』の世界に入り込んでいただけます。そうしたら、それはとても豊かで楽しい時間になると思います。

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(取材・文・撮影:平野祥恵)