第20回
いつから「オールドファン」?
日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、
よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第20回目は『いつから「オールドファン」?』です。ぜひご一読ください。
古くからのファンのことを「オールドファン」などと言ってしまいがちだが、ことタカラヅカの場合、いつからオールドファンなのかは迷うところである。
かくいう私は、タカラヅカを初めて観たのが1977年で、気がつけば半世紀近くも経っている!これは十分オールドファンではないかと思われるかもしれないが、上には上がいるのが、100年以上の歴史を持つタカラヅカの恐ろしいところだ。
かつて私は、「戦時中に宝塚大劇場で観劇していたら、通路に憲兵さんがやってきてとても怖かった」とか「アーニー・パイルの頃はねえ…」という昔語りをされるご婦人に出会ったことがある(ちなみに、終戦後から1955年まで、東京宝塚劇場は連合軍に接収されていたが、この時期の東京宝塚劇場は「アーニー・パイル劇場」と呼ばれていた)。こうした方々こそ筋金入りの「オールドファン」であり、私などはまだまだヒヨッコに過ぎないのだ。
だが、こちらは敬意を込めたつもりでも、言われた方はあまり良い気持ちはしないかもしれないのが、これまた難しいところだ。2000年代(つまり約20年前)に上演された作品を観たことがあるという方に「さすがオールドファン!」などと言ってしまい、「じつはショックでした…」と告白されたことがあった。たしかに、先の「アーニー・パイルの頃はねえ…」の方に比べれば、この方もまだまだ新米である。
逆のパターンでショックを受けたこともある。大学生のファンに、100周年の頃のタカラヅカについて、万人周知の事実のつもりで話したら、キョトンとされた。聞けば、彼女たちにとってはタカラヅカ100周年も、すでに「歴史」なのだそうだ。考えてみれば、その頃の彼女はまだ子どもである。令和に生きる彼女たちからみれば「平成の時代」の話なのだ。
そのうちすぐに、100周年の運動会を体験しただけでオールドファンだと言われる時代もやってくるだろう。私などは『エリザベート』初演時の思い出(1996年)でさえも、まるでついこの間のことのように語ってしまいがちだから、気をつけなければと思う。
この年代層の幅広さがタカラヅカの難しいところでもあり、面白いところでもある。一般に、異世代間の交流は大事だと言われながらも、なかなか機会もなく難しいものだ。だが、ヅカオタをやっている限り、世代を超えた友だちができるチャンスは多いから、ありがたいと思う。
そういえば、先日「老人」の定義に関する興味深い話を聞いた。歴史的にみると「老人」あるいは「高齢者」を年代によって区分し始めたのは、社会福祉などのサービスの対象を定める必要性からであり、これらの制度が整い始めた頃のことだそうだ。それ以前はたとえ何歳であろうと「元気で働けるかどうか」が全てであり、ある年齢以上の人を「老人」とくくることに意味がなかったのだとか。
そうだ!タカラヅカも同じだ。そもそもタカラヅカファンは永遠の乙女なのだから、実年齢も「いつから観ているか」も関係ない。「オールドファン」というくくりもやめてしまおう、そうしよう。
文中本千晶(なかもと ちあき)
山口県周南市出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
2023年、早稲田大学大学院文学研究科にて博士(演劇学)学位を取得したタカラヅカ博士。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。
1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。
宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。
『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。
第21回「日々是カンゲキ」のテーマは、「ヅカオタの妄想癖」
『RRR』というインド映画にすっかりハマってしまった中本さん。「この映画、タカラヅカで舞台化したらいいんじゃない?」なんて盛り上がっていたら、妄想が現実に…!?
次回も中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第21回「日々是カンゲキ」は2023年8月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布後となります。
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