第19回
タカラヅカ、5組そろってみんないい!
日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第19回目は「タカラヅカ、5組そろってみんないい!」です。ぜひご一読ください。
タカラヅカには花・月・雪・星・宙の5組があるが、ファンたるもの「好きな組」「心の故郷のような組」があるものだ。そして、いつの頃からか「○組が好きな人たち」のことを「○担」などと称するようになった。
「○担」な人たちの中には「他の組も観ます」という人もいれば「○組だけを観ています」という人もいる。タカラヅカは一つの「劇団」だが公演は組単位で行われるから、「劇団」推しの人もいれば「組」推しの気持ちが強めな人もいるということだろう。
だが、この場をお借りして私は主張したい。「5組全部を観てみようよ! その方が絶対に楽しいから」と。
…というのも今回のこのチラシ、月組・雪組・星組・宙組という4組の公演で配布予定らしい。つまり、この文章は月担・雪担・星担・宙担と、4組の「担当」の目に触れる可能性が高いわけだから、このようなことを敢えて主張してみようと思った次第である。もちろん、各公演にお越しの「花担」の皆さまにも是非お持ち帰りいただきたいと思う。
「5組ってそれぞれ違うんですか?」という質問は、タカラヅカ初心者からの定番の質問だ。その答えは「規模もメンバー構成も上演作品のジャンルも同じです。でも、100年余の歴史の中で培われてきた各組の個性や強みはあります」ということになる。
たとえば「ダンスの花組」「芝居の月組」「日本物の雪組」といったキャッチフレーズはよく知られている。星組といえば体育会系の気合いで100周年運動会の優勝をもぎ取った組だし、宙組は他の4組に比べると新しい組らしい大らかさを感じる。各組の「担当」は、こうした組の個性や強みをこよなく愛するのである。
だが、個性や強みというのは、他との比較の中でこそ光り輝くものだ。したがって、他の組を観ることで初めて「やっぱり花組の黒燕尾サイコー!」「月組の芝居は味わい深いわぁ!」「雪組の日本物は裾捌きから違う!」「いつだって熱いぜパッション星組!」「宙組スターはスケールが大きい!」などと、自分が推す「○組」の魅力を再確認することができるはずだ。これが「他の組もご覧になってみては?」と勧める理由の一つである。
もっとも「○組」にはない魅力の虜になり、新たな沼にハマってしまうことも往々にしてある。こうして世界が広がるのもまた良いではないか。色んな個性や強みを味わうことができるのがタカラヅカならではの楽しみ、そして贅沢なのだと私は思う。
ただ、5組を制覇しようとすると「スケジュールの管理が大変」という問題は生じる。とりわけ、宝塚バウホールやシアター・ドラマシティなどのいわゆる「別箱」公演や全国ツアーが実施されている時期は、5組中3組が全国何処かで稼働しているという状態になるから、追いかける側は時間(と財布)のやりくりに頭を悩ませることになる。
だが、手帳とにらめっこしながら予定を立てる時、あるいは体力の限りを尽くして予定を粛々とこなす時、不思議に「ああ!オレは生きてるぜ!!」という実感を味わうことができる。世の中に日常が戻りつつある今、ありがたい忙しさだなとしみじみ思う。
※このWEB版「日々是カンゲキ」は、チラシと同様の内容を掲載しております。
文中本千晶(なかもと ちあき)
山口県周南市出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
2023年、早稲田大学大学院文学研究科にて博士(演劇学)学位を取得したタカラヅカ博士。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。
1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。
宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。
『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。
第20回「日々是カンゲキ」のテーマは、「いつから「オールドファン」?」
古くからのファンのことを「オールドファン」などと言ってしまいがちだが、ことタカラヅカの場合、いつからオールドファンなのかは迷うところである。実はまだまだヒヨッコに過ぎないのかもしれない・・・
次回も引き続き中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第20回「日々是カンゲキ」は2023年7月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご確認ください!