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■日々是カンゲキ ータカラヅカ エッセイー 第12回「○○さんって××さんに似てる!?」

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○○さんって××さんに似てる!?

日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第12回目は「○○さんって××さんに似てる!?」です。ぜひご一読ください。

タカラヅカのファンは「○○さんは××さんに似ている」という話が好きである。ことに、若手スター○○さんが注目を浴び始めたとき、その人が先輩スターの「××さんに似てるよね」という話は盛り上がる。
だが、肝心の○○さんや××さんのファンの人たちは、微妙な気分になることもあるのではないかしら? …それがずっと気になっていたのだが、このコラムのイラストを描いてくれている牧彩子さんと話してモヤモヤがスッキリした。

牧さんは、「似ている」と言われる二人の共通点を具体的に指摘できる。さすがプロである。たとえば「面長の輪郭」「目が細い」「目鼻のパーツの位置が同じ」「顎のラインが似ている」といった具合だ。そう聞くと、とても納得感がある。
つまり、「似ている」といっても瓜二つというわけではないのだ。一口に「目が細い」といっても、つり目とたれ目は違うし、「目鼻のパーツの位置が同じ」でも形は違ったりする。だから、贔屓の顔を毎日穴が空くほど見つめているファンは、「似ている」といわれる二人が全然そう見えないのだ。

タカラヅカスターにはいくつかの「お顔の系統」がある気がします…。
タカラヅカスターにはいくつかの「お顔の系統」がある気がします…。

「顔が似ている」と「芸風を受け継いでいる」は区別した方がいいですよね、という話も牧さんはしてくれた。とかく「顔立ちが似ている二人は芸風も似ている」と思われがちだ。たとえば、濃い顔立ちが似ているといわれる二人はざっくりと「アツい芝居をする人」と言われがちだ。可愛らしい顔立ちが似ているといわれる二人は「フェアリー系の役が似合う人」のカテゴリに入れられてしまう。
だが、これまたBlu-rayを何百回も巻き戻して贔屓のお芝居を見ているファンからすると、「あなたの目は節穴ですか」と言いたくなる。ご贔屓スターの繊細な役作りが伝わっていないのかと思うと哀しくもなる。

要するに、ファンの人とそうでない人では当該スターを見つめる解像度が全然違うから、ファンはモヤるのだ。「あるスターに対する一般的な印象と、ファンの人が好きなポイントはかなり違う」という話を第9回で取り上げたが、今回の現象も根っこにある要因は同じらしい。この場合、牧さん風に「具体的にどこが似ているのか、似ていないのか」を冷静に言語化してみることは、モヤモヤ解消に効果がありそうだ。

「似ている」話でもう一つよくあるのが、売り出し中の若手スター○○さんに、すでにタカラヅカを卒業したご贔屓△△さんの面影を見てしまうという、「昔の恋人の面影を今の彼氏に重ねる」ふうな話である。
この場合、第三者からすると、○○さんと△△さんとの間におおよそ何の共通点も見出せないことも多い。だが、ここで大事なのは「似ている」と言っている人の心にある、△△さんの思い出である。したがって、この手の会話をするときは「○○さんと△△さん、果たして本当に似ているか?」を真剣に議論したりせず、ひたすら傾聴すること。それが円満なタカラヅカトークの秘訣だろう。

羽根だけじゃない、歴代スターの思い出も背負ってます。
羽根だけじゃない、歴代スターの思い出も背負ってます。

こうして考えてみると「○○さんと××さんが似ている」話はなかなか奥が深い。「似ている」話で盛り上がるときもモヤるときも、それぞれの大切な思いが心の奥に潜んでいるのだと思う。

中本千晶(なかもと ちあき)

1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。

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2021年12月2日発売
文/中本千晶
イラスト/牧彩子
監修/川村宏(高校世界史担当 社会科教諭)
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イラスト牧彩子(まき あやこ)

1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。

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次回予告

第13回「日々是カンゲキ」のテーマは、「タカラジェンヌのイケオジ力」

次回のコラムのテーマはずばり「髭」!
今から45年ほど前、『風と共に去りぬ』が初演されたとき、トップスターが「髭をつけるか」で大問題になったこと、ご存じですか?
次回はそんなタカラヅカと「髭」の関係について、中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第13回「日々是カンゲキ」は2022年12月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご確認ください!