第8回
母娘ファンは楽し
日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第8回目は「母娘ファンは楽し」です。ぜひご一読ください。
タカラヅカの虜になってしまった少女はまず、タカラジェンヌになることを夢みる。だが、この夢の実現可能性は宝くじで1等を当てるレベルである。次に考えるのは、娘をタカラジェンヌにすることだ。だが、これも難易度が高すぎる。
そこで彼女は心に誓うのである。せめて娘を立派なヅカオタ二世に育て上げたい…と!
私の周囲の母たちも、これには腐心しているようだ。まず頭を悩ませるのは、いつ、どの作品でタカラヅカデビューさせるかである。「わかんなーい」とか「つまんなーい」とか言われたら終わりだから、作品は厳選することになる。もっとも私調べによると、どんな作品から入ろうと、いずれハマる人はハマる。つまり我が子にヅカオタDNAが受け継がれているか否かの問題に過ぎない気もする。
母が娘を英才教育するだけじゃない、娘から母へのリカレント教育もあっていい。娘の方から母をタカラヅカ観劇に連れ出して、ハマってくれたらしめたもの。なにせタカラヅカは最強のアンチエイジングツールであり、最高の親孝行ということになるだろう。
母娘でファンになると実に楽しい。とにかく会話のネタに困らないのである。したがってヅカオタ母娘の間では「コミュニケーションの不在」という問題は起こり得ない。
一緒に観劇したり、チケット取りのための作戦を練ったり、共に過ごす時間も増える。もっとも、娘に内緒で母だけがサヨナラ公演千秋楽のチケットをちゃっかりゲットしていた(もしくはその逆)という抜け駆け行為もたまにある。そうすると母娘の信頼関係に一時的にヒビが入るが、程なく回復するから心配はいらない。
さらに良いのは、ヅカトークによって世代間の感性や情報のギャップが埋まり、お互い幅広く作品を楽しめることだ。最近話題の漫画やアニメを舞台化した作品の楽しみ方については、娘が母に指南すればいいし、逆にいにしえの名作が再演されたときは、初演の頃の思い出話を母が娘に語り聞かせればいいのである。
中には「我が家は曽祖母・祖母・母・娘の四世代にわたるタカラヅカファンでございます」という人もいるかも知れない。その場合、一家でタカラヅカ100年余の歴史のうちかなりの部分がカバーできそうである。
何故こんなテーマで書きたくなったかというと、私自身も母娘ファンとして多大な恩恵を受けているからだ。とりわけコロナ禍の昨今は、離れて暮らす母を元気づけたいときにタカラヅカは何かと役に立つ。
先日、私のヅカオタ心をくすぐる気の利いたLINEメッセージが母から届いた。それを無邪気に面白がっていたところ、そんな風にできることがうらやましいと、同世代の友人から言われた。ずっと当たり前だと思っていたことが、じつはかけがえのないことだったと気づいた。
これからも、母にはずっと一番のヅカ友でいて欲しいな。今日は母の日。そんなことを改めて思いながら、この原稿を書いている。
文中本千晶(なかもと ちあき)
1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。
1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。
第9回「日々是カンゲキ」のテーマは、「もっと楽しく!ヅカトーク」
タカラヅカファンが集まると、一気に花咲くヅカトーク!
ところが大好きなスターについて少々熱く語りすぎて、周りとの温度差を感じてしまう…なんて経験はありませんか?
せっかく同じタカラヅカファン同士、程度の差はあれ、どうせならたくさんの人とヅカトークを楽しみたい!
そんな方のために、ちょっとした考え方のコツを、中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第9回「日々是カンゲキ」は2022年7月以降の貸切公演にて配布、WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
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