第6回
一粒で二度
美味しい!!
日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第6回目は「一粒で二度美味しい!!」です。ぜひご一読ください。
タカラヅカファンにとって、ご贔屓スターとは「一粒で二度美味しい存在」だと、いつも思う。
まず前半のお芝居では、ご贔屓が演じる○○(役名)に感情移入して、共に悩み苦しんだり涙を流したりする。ところが、幕間休憩後のショーでは〇〇(役名)に代わって××さん(芸名)が登場。スタイリッシュなダンスや心に染みる歌声に翻弄され、挙句の果てには魅惑の目線で心を射抜かれてしまうのだ。
いわば、フルコースのお料理に満足したはずが、さらに豪華なデザートも待っていました〜みたいな感じである。ああ…なんという多幸感。ありがたや、ありがたや。
ならば一本物のお芝居の場合、デザートはつかないのか?というと、そんなわけはない。物語が一旦完結した後に、フィナーレとして30分程度の歌・ダンス中心の場面がついてくるのでご安心を。
しかも一本物の場合、つい先ほどまで主人公をいたぶる悪役だったはずの人が一転してキラキラ笑顔で登場したり、劇中で非業の死を遂げたはずの人が華やかな衣装を着て蘇ってきたりするので、その多幸感たるや二本立て以上かもしれない。
最近の私のツボは、前半のお芝居で枯れた老人の役などをやっていた人が、後半のショーでは男役の色気をむんむん放ち、バリバリ踊っていたりすることである。性別のみならず年齢さえも軽く超えてしまうタカラジェンヌって一体何者???
以上は主に男役の話だが、娘役はどうだろう。最近はショーの中で娘役が力強くリードする場面も増えてきた。そのうち、前半のお芝居ではいい女を演じ、後半はショーストッパーとして名を馳せるカッコイイ系の娘役も出てくるのではないか。いや、出てきて欲しい。「令和のエッチンタッチン」(イラスト参照)が誕生する日も近いと、私は期待している。
かくのごとく「一粒で二度美味しい」という稀有な存在であるタカラジェンヌは、役者として精進しつつ芸名の自分磨きも怠らない。そこで、例によっておこがましくも考えてみた。私もこれを真似して「一粒で二度美味しい存在」として生きていけば良いのではないか?と。
多くの人にとって、人生は仕事とプライベートの「二本立て」だ。タカラジェンヌ風にいくなら、まず仕事では「役を演じ切ること」に徹する。そこで与えられるのは不本意な悪役かもしれない。クレームの嵐で蜂の巣に撃たれまくるかもしれない。でも、プライベートでは一転「本名の私」として華麗にセリ上がってみせるのだ。
どうだろう? この流儀でいけば、私の人生だって「一粒で二度美味しい」。ワークライフバランスも整えてくれるタカラヅカはやっぱりすごい。
文中本千晶(なかもと ちあき)
1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。
1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。
第7回「日々是カンゲキ」のテーマは、「日本物への愛を語る」
タカラヅカの魅力は軍服の男役や輪っかドレスの娘役だけに有らず!
「日本物」ならではの、衣装の魅力、物語展開の魅力、日本物にあやかって一度はトライしてみたい「着物で観劇」についてなどなど。
そんな日本物への深い深い愛情を、中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストでお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第7回「日々是カンゲキ」は2022年5月以降の貸切公演にて配布予定。WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご確認ください!