第3回
“ヅカ筋”を
鍛える!
日々の観劇(感激)生活の中での起こりがちなできごと(あるある)を実体験も交えて面白く描写しつつ、よくある疑問を一緒に考えてみる、エッセイ風なコラム。その時々に上演されている作品に関するお役立ち情報も折り込んでいきます。
第3回目は「“ヅカ筋”を鍛える!」です。ぜひご一読ください。
ある演劇評論家(専門はタカラヅカ以外)が昨今のチケット代の高さを嘆き、「お客さまが金額に見合う分だけ楽しめているのかが心配になる」と言っているのを聞いた。
だが、ことタカラヅカファンに限ってはそんな心配は無用に決まっている。舞台の隅から隅まで、そして上演時間中どころかビフォーアフターまで含め、とことん味わい尽くしてやるぞという気合い、チケット価格の最後の1円分まで必ず元を取って帰ろうという貪欲さたるや、頼もしいという他はない。
どんな作品に対しても決して動じることなく、これを楽しめる力のことを、ここでは「ヅカ筋」と呼ぼう。タカラヅカファンには「ヅカ筋トレ」に余念がない人が多いのだ。
即効性のある「ヅカ筋トレ」法として、第一に思いつくのは「勉強する」ことだ。たとえば、作品の原作を読んでみたり、歴史的背景について調べてみたりする。タカラヅカの舞台は、脚本のみならず衣装、小道具に至るまで、思いがけないところが原作や史実に沿って作り込まれているので、勉強すればするほど新たな発見ができるのだ。
むろん、こんなことは言うまでもなく多くのタカラヅカファンがやっている。私調べでは、熱心な宙組ファンのほとんどがホームズものを今年1冊は読んでいるし、今なら『柳生忍法帖』を読み進めて衝撃を受けている星組ファンも多いだろう。最近は出版業界もこのことに気付き、ある作品の舞台化が決まると、すかさず原作本に主演スターの写真入り帯を巻き直して売り出すというヅカ商法が定着している。
歴史に関していうとフランス革命とハプスブルク帝国の歴史だけは詳しいというファンは多いが、花組ファンは今や古代ローマ史にも詳しくなっているに違いない。最近は古今東西あらゆる時代・さまざまな国が舞台になるから勉強家なタカラヅカファンも大変だが、そんなときには最近出たらしい『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』という本がきっと役に立つだろう。
ヅカ筋を鍛えるためには「色々な人と感想を語り合う」のも効果的だ。とりわけ、自分とは違う贔屓、違う組を応援しているファンの熱い語りに耳を傾けてみることをお勧めしたい。なぜなら、自分では決して気付けない見どころを教えてもらえるからだ。
「〇〇というセリフを言う時の表情にキュンとする」とか「〇〇の場面で腕まくりをして踊るときの二の腕の筋肉がたまらない」とか、ファンのツボはとかくピンポイントでマニアックなもの。それを聞いてから観ると、同じぐらい細やかな解像度で舞台を眺めることができる。
こうしてヅカ筋トレを続けることで獲得できるのが、「広い視野と豊かな感性、そして寛容な心」である。いつも好奇心いっぱいで、素敵なところを繊細に感じ取れる、そして、どんなときにも穏やかでいられる心(むろんそれは批判精神をなくすことではない)。この鍛え抜かれた「ヅカ筋」は、人生という劇場でもきっと役に立つのではないかと思う。
文中本千晶(なかもと ちあき)
1967年兵庫県生まれ、山口県周南市育ち。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。
舞台芸術、とりわけ宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。
主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇は「愛」をどう描いてきたか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)、『タカラヅカの解剖図鑑』(エクスナレッジ)。早稲田大学講師。
新刊『タカラヅカの解剖図鑑 詳説世界史』(エクスナレッジ)好評発売中。
1981年生まれ。宝塚市在住。京都市立芸術大学を卒業後、2008年より宝塚歌劇のイラストを中心に活動。宝塚歌劇情報誌TCA PRESSのイラストコーナーを連載中。『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』、『タカラヅカ流日本史』などのイラスト担当。
初の自著『寝ても醒めてもタカラヅカ‼︎』の他、新刊『いつも心にタカラヅカ!!』(平凡社)好評発売中。
第4回「日々是カンゲキ」のテーマは、「初心者大歓迎!」
あらゆる演劇ジャンルの中でも、タカラヅカファンの新規顧客獲得に対する熱意の高さは一、二を争う!?
タカラヅカへの深い深い愛情がゆえに勧誘行為に余念のないタカラヅカファンについて、中本さんと牧さんの素敵な文章とイラストをお届けいたします。
「日々是カンゲキ」はセディナ貸切公演にて先行配布中。第4回「日々是カンゲキ」は1月以降の貸切公演にて配布予定。WEB版の掲載は貸切公演での配布終了後となります。
ぜひセディナ貸切公演にて、先行配布中の「日々是カンゲキ」をご確認ください!